栗城史多のエベレスト劇場
7大陸最高峰単独無酸素登頂を目指した栗城氏とは同じ札幌にいながら、
2018年エベレスト南西壁を下山中に滑落死する最後まで関わりを持つ事はなかった。
2004年、彼は単独でマッキンリーに登頂を果たすと立て続けにアコンカグア、キリマンジャロなどの各大陸最高峰に登り「7大陸最高峰の単独無酸素登頂」を掲げ、
さらに「夢の共有」を唄いSNS上で、そしてお茶の間で大ブレークしていくことになる。その後、最後に残った世界最高峰のエベレストに向かうのだが、何度も失敗を繰り返す。
あげく2012年秋、西稜からの試みでは手指9本を凍傷で失っている。
もう近寄りがたい存在で批判的に言うのも嫉妬心からと思われかねないので山やたちは完全にスルーの状態だったのではないだろうか。
私自身も自分のお客さんたちが目をハートにして応援しているんですと言っているのを苦笑いで応え、極力、話を逸らせるようにしていた気がする。
「デス・ゾーン」を読み進むうちの彼の山をナメ切った行動にだんだん腹が立ってくる。内村航平や羽生弓弦が夢を語るならわかるが、彼は山におけるトレーニングをほとんどしないまま、「夢は願えば叶う」って…そりゃあ、努力した人の言う言葉でしょ。ところがこの本を読み進むうちに世間に追い込まれていく彼の姿が浮き上がってくる。著者が多くの人にインタビューをして裏取りを積み重ね暴かれていく衝撃の真実。そしてラストシーン。
一時期、インスタグラムなどにウケ狙いでおバカな画像をアップするのが流行っていた。深夜のコンビニで裸になって商品棚に横たわる画像や冬の富士山に運動靴で登って行って滑落死した人などなど…
8000m峰全山登頂、人類初のエベレスト無酸素登頂を遂げたラインホルト・メスナーは「真の意味で単独ではなくなる」という理由で無線機を持たずに登頂を果たしている。カメラに向かって心情を訴え涙を流すシーンを何度も流す栗城氏とはあまりに対照的だ。
芸人のイモトやなすびがエベレストに挑戦したのは芸人としてであって、登山家風情を装ってはいない。
登山家風を装った彼は次第に追い込まれていく羽目となり、挙句…
著者の河野氏が言うように彼の人生は最後まで単独だったのだろう…